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異種楽器対談 第27回、第28回

異種楽器対談

オーケストラのプレーヤーは大のお話好きです。楽屋、居酒屋、はたまた本番中のステージで(あ、これは聞かなかったことにしてください。)おしゃべりに夢中です。特に楽しいのは楽器のウンチク。ちょっとのぞいてみましょうか。プレーヤーならではのお話が聞けそうです。なかには少しあやしいものもあるようですが・・・

第27回、第28回 ヴァイオリンの小川有紀子さん、トランペットの森岡正典さん

────ヴァイオリンの小川有紀子さんが、トランペットの森岡正典さんになにやら尋ねています────
──(小川)トランペットは何歳くらいからできるものですか?
 (森岡)よくその質問受けますけど、だいたいトランペットが持てる年。だから3つ…。
──重い?軽いでしょ?
 軽くないよ。バランスが難しい。支えが無いから。支点が口と腕でしょ。だからヴァイオリンみたいに肩に乗っけられる物じゃないし。持ってみると分かるけど、90度に持っていることがまず大変なの。
──あ、90度に。
 うん。クラリネットみたいに下がると、もっと持ち上げなさいって言われるから。90度の体勢に結構な重さが加わると、口が痛いっていうよりも持っていることが大変。
──じゃあ、3歳児で持てるわけじゃないんだ。
 無理だね。聞いたことはないなぁ。
──私すごく軽いものだと思ってた。
 僕のお師匠さんのフィリップ・スミスさんの子供は、3つから持って遊んではいるけど、吹けるようになるには、日本でもそうだけど小学校の中、高学年。早くて4、5年生だね。
──じゃあ、持てるとして、その他に吹ける条件は?
 あとは肺活量だね。
──ということは女性より男性のほうが…。
 うーん、小さい頃は関係ないね。むしろ女の子のほうが音が出ることが多いよね。最近は、サッカーとか野球とか、感覚いい男の子はみんなスポーツ系に取られちゃって、吹奏楽部はみんな女性多くなってきてる。
──それがどうして途中から男性ばっかりになるの?
 (プロに)ならないだけ。男性が残ってるだけだと思う。
──本当?
 絶対数は、女性のほうが多い。一人も男子がいない学校が多いのね、吹奏楽に。一人もいないバンドが多いわけ。音大行くと男子がいるのは残ってるだけだと思う。
──女の子みんなやめちゃうの?ああそう。もったいないね。やったらどうなの。
 うーん、世界的にもプロの女性トランペット奏者は数えるくらいしかいないし。
──トランペットも当然個人レッスンですよね。
 そうだね。
──たとえば子供に教えてるじゃないですか。
 僕はあんまり…。子供のことは好きなんだけど、子供が僕のこと嫌いみたいだからあんまりやってない。
──(笑)たとえば子供に教えたとして、この子は上手になったなぁと思うのは何ができた時?大人でもいいんだけど。
 うーん、自分の話が伝わった時。単純に。
──自分の話を理解してくれた時?
 うん。できるできないは、その場じゃ生まれないのね、トランペットって。
──じゃあ、おさらいしてなんぼと。
 歌だったら声帯が決まるのが大人になってからとかあるじゃない。トランペットも僕は歌と近いと思ってるんだけど、テクニカルなものは指3本しかないわけだから。
──ちょっと待って。それも私知らないわ。
あ…そう。それはちょっと重症ね。
──(笑)3つしかないの?
 ピストン3本なの。
──左手は何してるの?
 持ってるの。
──それだけ?
 多少の音程調節はある。管を長くしたり。トロンボーンみたいにスライドがあってね。
──実物見たらダメ?
 いいよ。
──へー。楽器綺麗ね。
 綺麗でしょ。楽器だけでも綺麗にっていう僕のポリシーなの。
──(笑)ちゃんと磨くんだ。
 そうそう。
──オケ行ってリハで吹くでしょ、しまうときに全部磨くの?
 そうしないと、酸が強いと錆びるので、いわゆる汗っかきと乾燥肌の人いるでしょ?僕一所懸命吹くほうだから、汗がすごいわけよ。だから錆びちゃうのね。
──ふーん。ドは?え、何もしないの?あ、何もしないのもありか。
 (指使いを見せている)ドはソと一緒。ミはラと一緒。それに半音もあるでしょ。トランペットも半音あるの知ってた?
──(笑)あるだろうなと思ってた。
 おおー、思ってた?あるのよ、これが最近。(笑)ドのシャープ。レのシャープはこれ。
──レのシャープとラのフラットを口で変えるの?
 そう。いわゆる倍音なの。ド・ソ・ド、シ・ファのシャープ・シ、ミ・ラ・ミ。
──じゃあ口大変なの?
 大変。すごい大変。木管だったらリードというものがあって削るでしょ?僕達調子悪いからって唇削ったら血だらけになるもん。
──あら大変。そもそも何オクターヴ出るの?
 2オクターヴ半の楽器。
──どこからどこまで?一番下は?
 Fis(フィス=ファのシャープ)
──ヴァイオリンでいうG線の下のFis?
 そこからC (ツェー=ド)まで上がって2オクターヴ。音域の狭い楽器なの。
──唇の鍛え方みたいなのはあるの?
 唇鍛えるっていうよりも、専門的なこというと筋肉があるわけさ、口には。僕達口の筋肉使うっていうのは、しゃべる時、食べる時。でも振動する筋肉ってないわけ。唇振動させてブーってやるとすごく痒くなるよね。微震動の筋肉っていうのは全然違うわけ、しゃべるのと食べるのと。それを毎日鍛えるのを怠ると筋肉痛になるわけ。
──なるんだ。
 なるなる。全然もたない。カップラーメンできる間吹いたら終わり。
──(笑)
 持久走とかやんなかった?いっつも走ってる人はなんともないじゃん、筋肉。でも俺達は次の日とかパンパンになるじゃん、足が。それと同じで。今はそんなことないけど。
──口大事なんだ。
 そうね。歯も大事だけど。振動するから。
──歯並びとか。
 そうそう。でもまぁそれも慣れだからねぇ。でも発信源は唇だからね。
──マウスピースでトレーニングするの?
 うん。
──マウスピースだけでも音階できるの?
できるできる。
──マウスピースで音階できるようになると、楽器に付けてもオッケーと。
 楽器付けた時に容易になるからね。
──だからマウスピースだけで吹いてるんだ。私よくわかってなかったから。
 でもわからない人が殆どだと思う。所詮違うから、3歳からやってる弦楽器の人と。そういう人と一緒にやるために、一所懸命練習しなくては…って思う。
──いやー、トランペット3歳からやってもできないと思う。
 だから迷惑かけないようにがんばんなきゃなって。
──(笑)でも逆にいえば3歳からやってるのにできないこともいっぱいあるじゃん。
 うん。その程度かっていう時もあるよね。
──(笑)
 僕は、物心つくかつかないかの頃からやってる人たちっていうのはすごい尊敬してる。
──持ってもいい?
 どうぞどうぞ。
──(持ってみる)
 重いでしょ?
──ぜんぜんイメージと違う!
 結構重いよ。で、90度に構えて…。
──うわっ、これ筋トレに使える。
 これでずーっと。それが辛いのよ。
──凄い姿勢良くなるね。
 地味に重いの。
──全然イメージ変わった。トランペットって、すごいかっこいいわ。
 ありがとう。どうもはじめまして。

──トランペットって、音教の時とか子供達に持たせたりするの?
 うん。まあ、この楽器じゃないけど。これはオケで使うC(ツェー)のトランペットだから。
──ん?どういうこと?
 C管。いわゆるヴァイオリンと一緒。
──え、いくつ種類あるの?
 全調、基本的に。半音は厳密にいえば作ればあるけど。市販で出てるのは、基本はBフラット。クラリネットもそうだけど吹奏楽はBフラットが基調になってるんだけど、このC管じゃなくてBフラットのトランペットを一番最所に僕達は持つの。だけどオケはいろんな読み替えとか音の書き方とかいろんなことがあってC管のトランペットを98パーセントから99パーセント近くは使うんだけど。
──どうして最初っからそういうふうにしないの?
 吹奏楽の楽器が、Bフラット基本のものが多いから。
──これ子供に持たせたら、絶対かっこいいと思う。
 ね。だけど、一番かっこいいのはホルンかな。キラキラで。
──でもあっちのほうが重いでしょ?
 重いけど、あれは右のベルに手入れて膝に乗っけられるから。
──トランペットはピシッとしてる。
 そう。再発見だね。
──イメージ変わったなぁ。
 単純だから結構大変。上手くいっても目立つけど、上手くいかない場合もっと目立つでしょ。ブピーッとかって。
──そうだね。トランペットって目立つ所で使う楽器だもんね。
 僕は不本意なんだ、この楽器。
──何で?
 ほんとはホルンやりたかった。
──あ、そうなんだ。
 うちの兄がやってて。それで吹奏楽部に入ることになったんだけど。僕はお兄ちゃんと同じ楽器がいい、と思って入ったの。そしたらトランペットの先輩が来て、「わートランペットにすごくいい唇してる」。
──それは嘘じゃないんじゃない?
 いや。うそうそ。唇薄いほうがいいって言われてるのトランペットって。よくみるけど、すごい上手な方は薄い人が多い。
──そうだね。
 多いんだよ、吹奏楽部で希望の楽器じゃなかった人。
──でも楽しかったんでしょ?
 いやー、辛かった。
──なんで?
 その学校にもよるだろうけど、昔は根性で教える先輩が多かったの。
──それかなり時代がかってる…。
 高い音どうやって出すんですか?って聞くと、「根性だ!」って。根性で出たらねぇ…。血が出た事もあった。
──うわー根性入ってるね…。
 いや、先輩に押し付けられたの。
──(笑)えー?!
 壁に頭押し付けてさ、イジメだよね。
──それまずいじゃん。
 ほら、出してみろ!って。で、ぷーって出たわけ。出たけど血も出てね。こんな辛いの嫌だと思って。そういう時代だったよ。
──でもやめなかったの?
 うん。
──なんで?
 …今みたいに娯楽がなかったんだよね。
──(笑)
 ゲームとかさ、ボーリングとか…。
──でも楽器を続ける続けないって、お遊びじゃないでしょ?
 もうひとつ理由はあるけど。身体が弱かったの。
──弱かったの?どうしたの?
 みんな今の僕みて信じられないって言うけど、超未熟児で1980グラム。で、生死を彷徨ってなんとか助かったらしいんだけど。証拠に小学校の時は、膝抱えて体育見学。6年まで。中学校行ったら運動部は入ろうと思ったけど医者に止められて。で、兄貴がいる吹奏楽部なら大丈夫だろう、ということで。それで、その頃からかな、すごい丈夫になってきて。
──やっぱりやって良かったね!
 そう、身体の為にも良かった。でも、ほんとにそれで信じられないくらいね元気になったから、ほんと感謝してるの。高校の2年まで一番前だったからね。痩せて小さい。考えられないでしょ?前へならえしたことないもん。
──オケやってて、一番今までで失敗したっていうことは何ですか?
 一番の失敗?失敗はあり過ぎるけど…。
──(笑)
 うーん…。「一番」は難しいなあ。アレもあるし、コレもあるし。
──一番印象に残ってるやつ。
 「ミュート」ってのがあるの。弱音器。
──うん。はめるやつね。
 うん。それがね、よく落ちるんだよ。うるさい曲ならまだいいんだけどね。静かな曲で「ドン!ゴロゴロゴロ!」ってやるわけよ。それはもう真っ青ね。あるオケに客演行った時、指揮者が尾高さんだったのね。「ゴロゴロゴロ!」って落ちちゃって。それで終わってから「すいませんでした…」ってことあったよ。尾高さんは優しい人だから、「まあ、そういうのはしょうがないですよ。」って言ってくれたけどね。その奥の目がね…。ハヒーッ!って感じでね…。
──(笑)
 あとこれは僕の失敗っていうんじゃないかもしれないけど、レオノーレの3番っていう曲ね。舞台裏でファンファーレってのがあるじゃない。あれは何処だったかな…。あ、一関だ。一関の第九。第九の前によくやるんです、レオノーレの3番。舞台裏で吹くんだけど、合唱のオバサンたちが後ろに控えてるわけよね。自分達の本番まで。で、僕がそのまま吹こうと思ったら、止められそうになったわけよ。
──(笑)えー?!
 「あなた!今本番中よ!」「な、なに?!」で、「パー、パラパッパッパ…」一回目終わりました。そしたらそのオバサンが、「ねえねえねえ!ここで何か吹いてるわよ!」
──アハハハ。
 それ2回あるわけよ、ファンファーレ。その人たちブワアーッと俺のまわり取り囲んじゃって。
──おばちゃんたちが?
 「こ、ここで吹くの?そういう曲なの?」「そ、そうです。ちょっとすいません…。パー、パラパッパッパッ…。」
──(笑)
 そういうのがねえ、もう、笑いをこらえるのと、香水の匂いで…。厳しいんだよね。
──(笑)
 すごいの。今だにその匂いは憶えてる。今なら考えられないね。今ならちゃんとスタッフがまわり固めてると思うから。
──居なかったんだ?
 うん。昔はね。だって皆、譜面台もね、自分達でやるようにしてたからね。宮フィル時代は。
──びっくりだね。
 びっくりだよね。N響の某トランペットの人はやっぱり同じ曲で、ガードマンに止められたって(笑)
──もしトランペットじゃなかったら、オケで演奏するとして、他にやってみたい楽器は?
 チェロです。
──なんで?
 好きだもん。
──チェロ好き?
 うん。あの音といい、音楽といい…。一番好きなのがチェロなのね。ま、歌が好きなんだね。人の声というか。本当はトランペットあんまり好きじゃない。ほんとにほんとに。これよく訊かれるけど、「生まれ変わってもトランペットやりたいですか」って。俺は絶対やらない。
──あ、本当。
 うん。みんなそうだと思うんだけど、「たまたま」じゃない?音楽を表現する道具、小川さんはヴァイオリン、俺がトランペット。たまたまでもそれは運命的なものもあると思うけど。俺自身トランペットに選ばれた人間じゃない。だから修行させられてる。ほんっと、きついよ。きつい。あのー、今になってきついって言うんじゃなくて、始めた当時から。「なんでこんなうまく行かないんだろう」とかね。夢を…ね、与えたいんだけど、僕のラッパに関してはそういう感じじゃない。
──じゃチェロはやってみたいの?
 うん。
──他は?
 どっちかって言うと高音じゃない楽器がいい。
──ヴァイオリンなんてやだ?
 うーんまあ、こっち(トランペット)と似てるようなもんだし。
──ああ、そうだね。
 ヴァイオリン、オーボエ…。
──私も低い音の楽器がいい。
 やっぱり。それはね、声に比例するとこあるらしいよ、好みって。俺、声がすごい低いじゃない。例えば、ピッコロトランペット吹く時って、テンションがらっと変えなきゃ。
──でも森岡さん、声は低いけど、キャラはこう、上向きだよね。
 あー、それは「能天気」ってこと?ありがとうございます。
──(笑)そうじゃなくて。人に対する感じがすっごい落ち着いててスローテンポなんじゃないでしょうか…。と思うけど。
 それはね、おつき合いしてみると分かるけど、本当にね僕のこと知らないね。
──えー?(笑)
 暗いよ。
──うそー(笑)
 ほんっと暗いよ。
──どー考えても暗くない。(笑)
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